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2025年8月27日

関税率改正・原産地規則・貿易制裁リストの更新情報を迅速に把握する実務ガイド

グローバル経済の不確実性が高まる中、貿易関連規制の変更頻度は急速に増加しています。
民間集計によれば、米国のSDN(Specially Designated Nationals:米国財務省OFACの制裁指定対象)指定は2024年に3,135件で、2023年(2,502件)から約25%増となりました。各国でも指定が増加傾向にあります。また、各国のFTA・EPAの新規発効や既存協定の改正により、原産地規則(PSR:Product-Specific Rules)も頻繁に変更されています。

従来の人力による情報収集では、こうした変更情報の把握に相応の時間を要することが多く、コンプライアンス違反や関税コスト最適化の機会を逃すリスクが高まっています。特に、複数国との取引を行う企業では、各国の貿易関連規制を継続的に監視し、業務プロセスに迅速に反映することが経営上の重要課題となっています。

本稿では、貿易業務の効率化とコンプライアンス強化を目指す担当者が、関税率改正・原産地規則・貿易制裁リストの更新情報を効率的に収集・活用するための具体的手法について解説します。

監視すべき貿易関連情報の種類と特徴

関税率の改正情報

関税率は、各国の貿易政策や経済情勢に応じて定期的に見直されます。日本では、関税改正は主に毎年度(4月1日)に実施され、必要に応じて随時改定(例:1月1日版・2月1日版など)も行われます。令和6年度(2024年度)の改正は、個別品目ベースの改正(暫定税率の延長や品目見直し等)が中心です。なお、変更品目数の統一的な公表値は確認できていません。

米国では、USTR(米国通商代表部)による関税措置の発動・変更が行われ、対中追加関税(Section 301関税:通商法301条に基づく措置)の見直しや対象品目の変更が四年次見直しなどを通じて公告されます。EUでは、欧州委員会が発表するCommission Implementing Regulation(実施規則)により、反ダンピング(AD)関税やセーフガード(緊急輸入制限)の導入・変更が通知されます(OJ:Official Journal=EU官報に掲載)。

原産地規則の更新

原産地規則(PSR)は、FTA・EPAの新規発効や既存協定の改正に伴い変更されます。CPTPP(包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定)について、2024年に協定全体として繊維製品のPSRが改定された一次情報は確認できていません。実務上は、各締約国の実施やHS(Harmonized System:国際的な関税分類)改正対応など個別の動きをフォローすることが重要です。

RCEP(地域的な包括的経済連携)協定に関しても、自動車部品の原産地認定基準が「段階的に変更」されたことを示す公的情報は現時点で確認できていません。HS改正の読み替え(トランスポジション)等には留意が必要です。これらの変更は特恵関税の適用可否に直接影響するため、輸出入企業にとって重要な監視対象となります。

貿易制裁リストの更新

米国のOFAC(Office of Foreign Assets Control:財務省外国資産管理室)が管理するSDNリストは、国際情勢の変化に応じて頻繁に更新されます。プログラム別・地域別の“月平均件数”を示す公式統計はなく、更新は月によって大きく変動します(大規模な一括指定が行われる場合もあります)。

EUの制裁リストについても、欧州理事会決定により定期的に更新され、対象となる個人・団体・企業の情報はEU官報(OJ)で公表されます。日本では、外務省が外為法(外国為替及び外国貿易法)に基づく制裁措置として、資産凍結等の措置対象リストを管理・更新しています。

貿易管理関連の政令・省令改正

輸出管理令や輸入承認品目令の改正により、輸出入の許可・承認要件が変更される場合があります。経済産業省は、安全保障貿易管理の観点から、リスト規制品目の追加・削除や、キャッチオール規制の運用見直しを定期的に実施しています。

2023年7月23日の輸出管理令改正では、半導体製造装置の規制強化により、23品目が新たにリスト規制対象に追加され、輸出許可の審査要件が厳格化されました。

具体的な情報活用シナリオ

総合商社の輸出入担当者

月間数百件の貿易取引を扱う総合商社では、関税率変更による収益影響の定量評価と、最適な通関戦略の立案が重要業務となります。例えば、RCEP協定での特恵関税率変更により、従来のシンガポール経由ルートよりもタイ直接輸入の方が関税コストで有利となるケースの早期発見が、競争力維持につながります。

また、貿易制裁リストの更新により、既存取引先が制裁対象に指定された場合、即座に取引停止措置を講じる必要があり、情報入手の遅れは重大なコンプライアンス違反につながる可能性があります。

製造業の調達・貿易実務担当者

自動車メーカーや電機メーカーでは、部品調達の原産地戦略と関税コスト最適化が利益に直結します。USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)における自動車の原産地要件では、地域付加価値(RVC:Regional Value Content)は75%、加えて労働価値含有率(LVC:Labor Value Content)は40–45%(時給16ドル以上の高賃金労働に係る要件)とされています。RVC/LVCは既に全面適用されています。

なお、関連してしばしば言及される鋼材の“melted and poured”(溶解・鋳造)要件は、2027年7月1日に開始予定の取り扱いであり、RoO(原産地規則)全体の移行期限を意味するものではありません。対応としてメキシコ工場での工程拡大や域内サプライヤーとの取引拡大を検討する企業が増加しています。原産地規則の変更情報を早期に把握することで、サプライチェーン再構築の戦略立案と投資判断を適切なタイミングで実行できます。

貿易コンサルタント・通関士

複数企業のクライアントに対して貿易実務のアドバイザリーサービスを提供するコンサルタントにとって、各国の貿易関連規制変更情報の網羅的な把握は、サービス品質の根幹となります。

特に、FTA・EPA利用による関税削減効果の試算や、原産地証明書の取得戦略立案において、最新の原産地規則と関税率情報は必須の要素です。クライアント企業の業界特性に応じて、監視すべき規制分野の優先順位を設定し、影響度の高い変更についてはできる限り迅速に情報提供することが求められています。

金融機関の貿易金融担当者

銀行の貿易金融部門では、信用状(L/C)発行や貿易保険の引受審査において、輸出入国の制裁措置状況と関税制度の把握が重要となります。制裁対象国・地域との取引や、制裁リスト掲載企業との取引については、マネーロンダリング防止法やテロ資金供与防止法の観点から厳格な審査が必要です。

また、関税率の大幅変更により取引採算性が悪化するリスクについても、融資審査の重要な要素として評価されています。特に、米中貿易摩擦に起因する追加関税措置については、既存融資先企業への影響評価と、必要に応じた条件変更交渉を迅速に実施する必要があります。

従来の情報収集手法における課題と限界

情報源の分散による収集効率の低下

貿易関連規制の変更情報は、各国政府機関のWebサイト、業界団体のニュースレター、専門誌、法律事務所のアラートメールなど、多岐にわたる情報源に分散しています。関税率は財務省関税局、原産地規則は経済産業省やジェトロ、制裁措置は外務省・財務省など、所管も多様で、情報の統合・分析に工数がかかりやすいのが実情です。

専門用語と法令番号による検索の困難性

貿易関連法令は、HSコード(商品分類番号)、関税率表の項番号、協定名の略称など、専門的な識別番号や略語が多用されています。例えば、「第8703.23-000号(排気量1,500ccを超え3,000cc以下のガソリンエンジン乗用車)」の関税率変更情報を包括的に収集するには、HSコード、車種分類、エンジン仕様など、複数のキーワード組み合わせが必要となります。

また、FTA・EPAの原産地規則ではPSR(品目別規則)が適用され、関連する規則変更を完全に把握するには、協定名、章・項・号番号、規則種別の組み合わせによる検索が不可欠です。

多言語情報の処理負担

グローバルに事業展開する企業では、各国政府が現地語で公表する規制情報の収集が必要となります。米国のFederal Register(連邦官報)、EUのOfficial Journal(EU官報)、中国の海関総署公告など、主要貿易相手国の政府公報は現地語での公表が原則であり、翻訳と内容理解に専門知識と時間を要します。

緊急性の判定と優先順位付けの困難

貿易関連規制の変更には、即座に対応が必要な緊急事案と、中長期的な準備期間がある定期的な改正があります。例えば、米国の追加関税措置の発動は30–60日の予告期間が設けられることが多い一方、貿易制裁措置は即日発効となる場合があり、対応の優先順位を誤ると重大なコンプライアンスリスクにつながります。

効率的な情報収集手法

政府公報のRSSフィードとメール配信の活用

財務省関税局やジェトロは、関税率改正や原産地規則変更に関するRSSフィードやメール配信サービスを提供しています。これらを活用することで、重要な変更情報を迅速に入手できますが、配信量が多く、自社関連情報の抽出とフィルタリングが課題となります。

米国のCBP(U.S. Customs and Border Protection:税関国境警備局)が提供するCSMS(Cargo Systems Messaging Service)では、関税分類やFTA規則の変更について詳細な通知が配信されますが、配信は大量かつ高頻度で、重要度の判定と優先順位付けに専門知識を要します。

専門機関・業界団体による情報集約サービス

ジェトロの「貿易・投資相談Q&A」や日本関税協会の「関税週報」では、政府公表情報を実務的な観点から解説し、企業への影響度を分析した情報が提供されています。また、各業界団体(自動車工業会、電機工業会等)でも、業界特性に応じた関税・原産地規則の変更情報を会員向けに配信しています。これらは生の政府情報に比べて実務的な価値が高い一方、業界固有の情報に限定されるため、多角的な事業を展開する企業では複数のサービスを併用する必要があります。

AIを活用した次世代情報収集サービス

株式会社リバースタジオが提供する情報収集サービス Station は、世界各国の政府機関、国際機関、業界団体など、数百の情報源から貿易関連規制の変更情報を自動収集します。従来の手動収集では見落としがちな海外政府の現地語公報や、専門機関の分析レポートも包括的に監視し、情報の取りこぼしリスクを大幅に削減します。

さらに、収集した規制変更情報は、経営層向けの影響度サマリー、実務担当者向けの詳細解説、システム連携用のCSVデータなど、用途に応じて最適な形式で出力できます。多言語対応により、海外政府の現地語公報も日本語での要約が自動生成され、グローバル展開企業の情報収集効率を飛躍的に向上させます。

Stationは、既存の貿易管理システムやERP との API連携により、規制変更情報の収集から業務プロセスへの反映まで一貫したワークフローを構築できます。これにより、コンプライアンス違反の防止と関税コスト最適化を同時に実現し、貿易業務の競争力強化に貢献します。

貿易コンプライアンス強化に向けて

貿易関連規制の変更情報を迅速かつ正確に把握することは、現代企業の競争力維持とリスク管理において不可欠な要素となっています。年間多数に及ぶ規制変更の中から、自社事業に影響する重要な情報を効率的に抽出し、適切な対応を迅速に実施することが、グローバル事業の成功要因となります。

従来の人力による情報収集から、AI技術を活用した自動化ソリューションへの移行は、単なる業務効率化にとどまらず、コンプライアンス強化と事業機会の創出を同時に実現します。まずは自社の監視すべき規制分野と情報源を明確に定義し、現在の情報収集プロセスにおける課題を体系的に分析することから始めることをお勧めします。

その上で、情報収集の自動化と分析プロセスの高度化を段階的に導入し、持続可能な貿易コンプライアンス体制を構築することが、変化の激しい国際貿易環境における企業の競争優位性確保につながります。

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