ソフトウェア・IoT機器のセキュリティ脆弱性情報の収集が企業にとって重要課題となっている背景
企業のデジタル変革(DX)が進む中、システムのセキュリティリスク管理は経営上の重要な課題となっています。2024年には世界中で約40,000件の新たなセキュリティ脆弱性(CVE:ソフトウェアやハードウェアに存在するセキュリティ上の欠陥)が報告されました。
これは2023年の約29,000件から約40%増加しており、1日平均で約110件もの新しい脆弱性が発見されている計算になります。このような状況において、情報セキュリティ責任者は膨大な脆弱性情報を効率的に収集・分析し、自社システムへの影響を迅速に評価する必要に迫られています。
本記事では、ソフトウェア・IoT機器のセキュリティ脆弱性情報の特徴と、企業が直面している情報収集の課題、そして効率的な収集手法について解説します。
ソフトウェア・IoT機器のセキュリティ脆弱性情報の基本的な特徴
ソフトウェア・IoT機器のセキュリティ脆弱性情報とは、システムやアプリケーションに存在するセキュリティ上の欠陥に関する技術的詳細と対策情報です。これらの情報は、悪意のある攻撃者による悪用を防ぐため、発見され次第速やかに公開され、該当するシステムの管理者に対して修正プログラム(パッチ)の適用や回避策の実施を促します。
CVE識別子による標準化
各脆弱性には「CVE-2024-12345」といった固有の識別番号が付与されます。CVE識別子は、MITRE Corporation(米国の非営利団体)が管理する国際標準で、影響を受ける製品、脆弱性の種類、攻撃の条件などが記載されます。これにより、世界中のセキュリティ関係者が同じ脆弱性について共通の認識を持つことができます。
CVSS(共通脆弱性評価システム)による危険度評価
脆弱性の危険度は0.0から10.0までの数値で表現されます。米国標準技術研究所(NIST)の基準では、スコア0.1-3.9を「低」、4.0-6.9を「中」、7.0-8.9を「高」、9.0-10.0を「緊急」として分類しています。この数値により、どの脆弱性から優先的に対処すべきかを判断できます。
CWE(共通脆弱性タイプ一覧)による分類
脆弱性の種類は、CWEと呼ばれる分類体系で整理されます。2024年のCWE Top 25(最も危険な脆弱性タイプ25種)では、第1位が「CWE-79(クロスサイトスクリプティング:Webページに悪意のあるスクリプトを埋め込む攻撃)」、第2位が「CWE-787(バッファオーバーフロー:メモリ領域を超えてデータを書き込む脆弱性)」、第3位が「CWE-89(SQLインジェクション:データベースへの不正な命令実行)」となっています。
脆弱性情報収集が重要となる業界・企業の状況
金融機関における規制要件への対応
金融機関では、旧来参照されていた「金融検査マニュアル」は2019年に廃止されています。現在は、金融庁の監督指針や『金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン』(2024年10月公表)など、を踏まえ、システムリスク管理の一環として脆弱性対応の体制整備が求められています。
金融情報システムセンター(FISC)の「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準」では、セキュリティパッチの適用について「緊急度が高いもの(CVSSスコア7.0以上)については原則として30日以内」との基準が示されています。
製造業におけるIoT・産業用制御システムのセキュリティ管理
IPA(情報処理推進機構)の「制御システムのセキュリティリスク分析ガイド」によると、製造業では工場内のIoT機器や産業用制御システムの脆弱性が生産停止に直結するリスクを抱えています。米国のCISA(サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)は、産業用制御システム(ICS)に関する脆弱性情報やアドバイザリを通年で継続的に公表しており、企業はこれらの最新情報を注視する必要があります。
上場企業における情報開示義務
東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」では、上場企業に対してサイバーセキュリティ等のリスク管理態勢の整備を求めています。金融庁の「企業内容等の開示に関する内閣府令」改正により、2023年3月期以降、サイバーセキュリティに関するリスク情報の開示が義務化されています。
クラウドサービス事業者における顧客影響の最小化
クラウド主要各社(AWS、Microsoft Azure、Google Cloud など)が公開するSLAの主眼は可用性です。脆弱性対応はアドバイザリやセキュリティ通告、責任共有モデル等で運用されており、脆弱性修正の所要時間をSLAとして保証する形は一般的ではありません。
脆弱性情報の主要な収集源と特徴
公的機関による脆弱性データベース
NVD(米国脆弱性データベース)
米国NIST(国立標準技術研究所)が運営するNVDは、世界最大規模の脆弱性データベースです。CVE識別子、CVSSスコア、影響を受ける製品情報、対策情報が包括的に管理されています。情報取得はAPIを中心に行うのが実務的で、RSSは段階的な終了方針が示されているほか、2024年には分析の遅延・バックログが発生した経緯があるため、NVD単独に依存せず他ソースとの併用が望まれます。
JPCERT/CC脆弱性対策情報データベース(JVN)
JPCERT/CC(サイバーセキュリティ情報共有組織)とIPAが共同で運営するJVNでは、海外の脆弱性情報を日本語で提供するとともに、国内製品の脆弱性情報を発信しています。特に、日本国内で広く使用されているソフトウェアについては、詳細な影響分析と対策情報が提供されています。
ベンダー公式のセキュリティ情報
Microsoft Security Response Center(MSRC)
Microsoftは毎月第2火曜日(パッチ・チューズデー)に定期的なセキュリティ更新を公開し、緊急度の高い脆弱性については臨時パッチもリリースします。2024年に修正された脆弱性は年間で約1,000件超と見積もられており、大規模な更新が継続的に行われています。
Cisco Security Advisory
Cisco製品の脆弱性情報は、IOS、IOS-XE、NX-OS等の製品系列別にセキュリティ情報として公開されます。Cisco製品セキュリティインシデント対応チーム(PSIRT)が24時間365日体制で脆弱性対応を行っています。
Oracle Critical Patch Update
Oracleは四半期ごと(1月、4月、7月、10月)に重要パッチ更新を公開し、データベースやミドルウェア製品の脆弱性修正を行います。2024年10月の更新では334件の脆弱性修正が含まれました。
従来の情報収集手法における課題
情報源の分散による収集効率の低下
IPA「情報セキュリティ白書2024」によると、企業のセキュリティ担当者は複数の異なる情報源から脆弱性情報を収集する必要があり、情報収集に多くの時間を要しているとされています。
優先度判定の複雑化
CVSSスコアによる機械的な優先度付けだけでは、自社環境への実際の影響度を正確に判定することは困難です。複数の研究では、CVSSスコアが高い脆弱性のうち実際に悪用される割合はごく一部にとどまるとされます。一方で、CVSSスコアが中程度であっても、基幹システムで使用されている場合は緊急対応が必要となるケースが存在します。
情報の取りこぼしリスク
複数の情報源からの手動収集では、重要な脆弱性情報を見逃すリスクが存在します。Ponemon Institute(セキュリティ調査機関)の「データ侵害コスト報告書2024」によると、脆弱性の早期発見と対応により、データ侵害時の被害額を平均で約30%削減できると報告されています。
効率的な脆弱性情報収集に向けた解決手法
RSSフィードとAPIを活用した自動収集
NVD や JVN などの主要データベースは、RSS や API を提供しています。実務では、更新頻度や取得量、形式の安定性を踏まえ、API/JSON 連携を中心に設計すると運用しやすい場合が多いです。
あわせて、取得エラー時のリトライ/レート制御、監査可能な取得・変換ログ、差分更新の管理を組み込むと、長期運用での安定性が高まります。
メール配信サービスの活用
JPCERT/CC や各ベンダーが提供する脆弱性情報のメール配信は、重要情報を見落としにくくする手段として有用です。一方で受信量が多くなりがちなので、配信元・製品・深刻度・対象資産との関連などで自動仕分けし、一次トリアージ(例:自動タグ付けやチケット化)→二次評価(例:実環境影響の判定)の流れを明確化すると、チームの負荷を抑えやすくなります。
AIを活用した次世代情報収集サービス
従来の手動収集の限界を補う目的で、AI を活用した自動化ソリューションの導入が進んでいます。株式会社リバースタジオの Station は、広範な情報源を自動監視し、単純なキーワード一致に加えて意味解析に基づく関連情報の抽出に対応する設計です。たとえば「Apache」に関連する Tomcat、Struts、Kafka などの情報も横断的に扱い、自社のシステム構成・ポリシーに合わせた優先度付けを行えるようカスタマイズが可能です。
出力形式は、経営層向けサマリー、技術者向け詳細、CSV など用途に応じて選択でき、情報共有や意思決定の効率化に貢献できます。
まとめ
ソフトウェア・IoT機器のセキュリティ脆弱性情報は、現代企業のセキュリティ対策において不可欠な要素となっています。2024年だけで約40,000件、1日平均110件もの新規CVEが登録される中、従来の手動による情報収集手法では、工数負荷の増大と情報取りこぼしのリスクが深刻化しています。
金融機関における規制要件への対応、製造業の産業用制御システムのセキュリティ管理、上場企業の情報開示義務、クラウドサービス事業者の顧客影響最小化等、業界を問わず迅速かつ正確な脆弱性情報の収集・分析が求められています。
このような課題に対し、AIを活用した自動化ソリューションは、包括的な情報監視、知的な関連性分析、柔軟な出力形式により、企業のセキュリティ対策を根本から改善する可能性を有しています。脆弱性情報収集の効率化は、単なるコスト削減にとどまらず、企業の競争力向上とビジネス継続性の確保に直結する戦略的投資として位置づけるべきでしょう。
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